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PMI REP

2006年6月16日実施
受講レポート 「CCPMクリティカルチェーンPM概要」

2006年6月
株式会社アルゴ21 尾崎 智晴


はじめに


PMBOK2004では、新たにクリティカルチェーンPM(以下、CCPM)がスケジューリング・ツールに追加された。そこにはCCPMが以下のように定義されている
「制約の有る資源を考慮して、プロジェクト・スケジュールを修正するスケジュール・ネットワーク分析技法。クリティカルチェーン法は、スケジュールのネットワーク分析に決定論的アプローチと確率論的アプローチを組み合わせた方法である」
現在最も注目されているこの進捗技法について、(株)ロゴの酒井昌昭氏が6月15日にMPUF(Microsoft Project Users Forum)で講演された。本稿はそのセミナーの受講レポートである。

【見積り、計画段階の技法としての特徴】

CCPMは、PMBOKに取り上げられたことから一気にPMとして必須知識、研究テーマに浮上したが、伝統的なPM技法に対してどちらかというと「キワモノ」的にとらえられていた。それはあたかも、ドキュメントやプロセスを重視する「ソフトウェア工学」に対する「アジャイル開発」のような位置付けであったが、そこには科学的側面と心理的側面が考慮されている[1][2][3]。
科学的側面では、プロジェクトの構造から納期は遅れることが解説された。これはタスクの依存関係によるもので、合流がある場合、先行タスクの前倒しは伝わらず遅延のみが後続タスクに伝わるというものである。更にプロジェクトのユニーク性から、総所要期間は釣鐘型の正規分布ではなくベータ分布となると定義された。いずれも理論的、経験則的にも非常に説得性があるが、これまでのPM技法には、この2つの視点が欠落していたと考えられる。
心理的側面では、「学生症候群(一夜漬け)」と「パーキンソンの第2法則(作業の期間は計画した時間いっぱいまで伸び、予算は全額使い尽くされるまで消費される)」が解説された。これらの人間行動特性に対しても非常に説得力が高いが、CCPMではなく厳格な進捗管理によっても対応するということも不可能ではないと考えられる。しかしながら、(今回のセミナーには登場しなかったが)有名な『長屋の運動会』話にある[1][3]「屋上屋を架する(安全余裕)」心理は、PM既存概念を越える必要がある。今まで見積りの精度向上については、WBSの緻密さを上げるというアプローチがとられてきたが、これに対してCCPMは見積り数値を要素分解し、「ABP:Aggressive But Possible(厳しそうだが、やればできる)」と「HP:Highly Possible(まず大丈夫)」に分離するアプローチをとっている。一見するとこの手法はPERT(Program Evaluation and Review Technique)の3点見積りに近いが、ベータ分布という点を考慮した上で、最終目標であるバッファ計算に絞って簡易な方法をとっているためフレキシブルであるといえる。
CCPMには、最終成果物、納期から遡ってネットワークを引くなど、PM既存概念で「禁じ手」とされていることを含んでいるが、その本質は、見積り精度に人間の行動特性を加えた点であるといえる。

【進捗管理の技法としての特徴】

CCPMの特徴は計画段階だけではなく、進捗管理においても「PB:Project Buffer」だけを管理するという点が画期的である[1][3]。このことは、CCPM導入のトライアルプロジェクトの事例報告として、メンバー全員はリカバリによってバッファが増加することに対してゲーム感覚を覚えたという感想を、PMはリスケジュールが皆無でありストレス・フリーのマネジメントだったという感想があったと解説された。
進捗管理というと「管理」的なイメージが伴うが、確かにPBだけを注視するならば、この「苦行」イメージが一新されることであろう。ただし、その一方でCCPMのバッファマネジメントは静的で対応が弱すぎるという指摘もある[4]。


【CCPMの適用について】

CCPMの適用事例としては、既に米国ボーイング社で全面的に導入されているとの情報が報告された。一方で、今回の受講者のなかでは大多数がCCPMを知っていながら、実際に適用しているのは1例のみであった。このことは、未だ導入への敷居が高いことを意味している。
セミナーにおいても、CCPMは唯一絶対的な解ではなく、技法の一つとしての選択肢であり、既存のPM技法の方が適している場合もあることを強調されていた。このような適材適所ということ以外に、ツールの充実、普及度もまた導入事例が少ないことの原因であろう。エンタープライズ系システム開発においてはEVMによる進捗管理の導入が進み、一方でパッケージ開発、組込み系開発においてCCPMを適用する機会が増えるのではないかと予想される(CCPMとEVMの融合という、非常に興味深い事例も存在するそうである)。
CCPMの進捗管理では、PBだけを集中的に管理することから、ともすれば、個々のタスクについての実績を把握する視点が欠落するおそれがある。これは、WBSごとに厳密に予実管理行なうEVMと決定的に異なる点だと考える。進捗管理については、進捗状況のヒアリングだけではなく、ツールによる個々のタスク実績、つまりメトリクスの収集面にも留意する必要があるだろう。

【最後に】

講演終了後、恒例の懇親会において書籍を頂くことができた。今回の懇親会には、酒井氏以外にもCCPMで著名な中島秀隆氏、津曲公ニ氏もおられ、大変アカデミックな質問が(ビール片手に)なされた。講演終了後の懇親会にこそ、MPUFセミナーの本質があると感じる。

このレポートではCCPMだけを取り上げた。実際のセミナーでは、酒井氏もその源流となるTOC理論について触れられていたが、私自身がこれを十分に咀嚼できていないため本レポートから割愛した。なおMPUFでは、7月25日に「TOC思考プロセス 概説セミナー」、8月22日〜23日に「TOC-PMクリティカル・チェーン(CCPM)2日間ワークショップセミナー」が開催される予定である。

【参考文献】

[1] 中島秀隆、津曲公ニ:「PMプロジェクト・マネジメント クリティカル・チェーン」、日本能率協会マネジメントセンター、2003年6月
[2] エリヤフ・ゴールドラット:「クリティカルチェーン」、ダイヤモンド社、2003年10月
[3] 津曲公ニ、酒井昌昭、中憲治:「図解 コレならできるクリティカルチェーン もう、プロジェクトは遅れない!」、ダイヤモンド社、2004年4月
[4] 神庭弘年:「ITプロジェクトでのスケジューリング技法 CCPMの落とし穴?」プロジェクトマネジメント学会誌2004年6月(特集:プロジェクトのスケジュールを最適化する)



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